「具合どうだ」

「まあまあ…」

「冷蔵庫におかゆ入れといたから」



ほてった身体で寝返りをうち、部屋の戸口から顔をのぞかせている兄に「ありがと」と伝えた。

彼がちょっとためらってから、こちらに入ってくる。



「これ、返しとく。じゃな」

「うん…」



私の携帯を枕元に置くと、頭をぽんと叩いて出ていった。

行ってらっしゃい、とつぶやいたのは、間に合わなかった。

門が閉まる音を窓の外に聞いてから、はやる気持ちを抑えるべく、あえてゆっくり携帯に手を伸ばす。

ゆうべ、家に入るなり取り上げられたのだ。



『俺の知らないところで、変な会話されたくない』



まさに健吾くんに謝罪のメッセージを送ろうとしていた私は、兄の出した手を見つめ、絶望した。

こういうときの兄が、引くことはない。



『没収されて連絡が取れなくなるってことだけ知らせとけ。向こうに心配させたいわけじゃないから』



いかにも兄らしい、冷静なやり方で、私はその通りに健吾くんに送り、読まれたかどうか確かめる前に、携帯を預けることになった。

一晩明けて、ようやく確認できた携帯では、私の送信に対して少ししてから返事が来ていた。

このタイムラグは、運転中だったからだ、きっと。



【お兄さんの判断は正しいと思うよ。俺もちょっと頭冷やす。時間置いたら連絡するから】



それは、頭が冷えるまでは話したくないと言っているようにも読めて、私はなんて書けばいいのかわからなくなり、携帯をまた枕元に置いて、布団にもぐった。

熱のある身体が重い。

けどゆうべいきなり襲ってきた、恐怖するほどの寒気は去ったから、これから回復に向かうんだろう。


急なシフトの交換があったという兄は、半日しか家にいられず、また仕事に出ていった。

冷房を控えめに効かせた部屋で、とろとろとまどろむ。


最近、考えることが多かったから、疲れたのかな。

まあ、二、三日寝て過ごすのもいいかもしれない。

健吾くんも実家に帰ってしまうはずだし、そもそもこんな状況で会えるわけもないし。


夢の中でまで、そんなことを考えていたみたいで、ふと気がついて目を開けたときには、部屋の中は夕方の色をしていた。

西日でオレンジ色になった室内に、誰かいる。

椅子に腰かけて本を読んでいたその人影は、私が起きたのに気づくと、本を机に置いてこちらに来た。



「大丈夫か」

「靖人…」

「治樹くんから、お前を見ててくれって言われてさ」