美菜さんに、って。



「この間の話ってこと?」

「そう。電話かよって思うけど、ほかにタイミングなくてさ…」

「なんでわざわざコンビニで?」

「だって、自分の部屋で、ひとりで改まってそういう電話かけるのとか、考えただけで緊張するだろ」



居心地悪そうに言うのを見て、ぽかんとした。

緊張とかしちゃうんだ、健吾くんが。



「なに言うの?」

「わかんねー、とりあえず、これまで気づかなくてごめんってことと、郁のこと黙っててごめんってことしか」

「気づかないふりしてて、じゃないの」



エレベーターに乗りながら、健吾くんがうーんと難しい顔をする。



「それ、すげえ考えたんだけどさ、やっぱり俺、ふりなんかじゃなくて、気づいてなかったと思うんだよなあ…」

「ええー…」

「でもそれ言ったら、たぶん怒られるよなあ、どう思う?」

「怒られるっていうか、悲しませちゃうよ、絶対」

「マジか…どうしよう」



本気で困っているようで、健吾くんの声が弱々しい。

すでに緊張の色すら見える横顔に、私は唖然とした。


こんなもんなの?

大人でも、こういうときに悩むことって、そんなレベルなの?

しかも健吾くんが。

よくは知らないけれど、それなりに経験値も高くて、営業さんらしい話の巧みさとか相手を乗せる技とか、なに不自由なく持っているはずの健吾くんが。

こんな、初心者みたいに悩むんだ。

それで、正直に全部私に言っちゃうんだ。



「でもさあ、やっぱり一緒に仕事すること多いし、耐えられないんだよ、変な空気なの」

「きっと美菜さんも、健吾くんが限界なのわかってて、そろそろ連絡があるはずって思ってるよ」

「絶対いろいろ言われんだろうなあ…」

「大事な同僚だよって、それだけは伝えてあげなよ」



偉そうにアドバイスしてみると、健吾くんが考え込む。

エレベーターが1階に着くと、ひとつうなずき、「そうする」とやけに真剣な声で言った。