わかるよなっちゃん、私も憧れる。

でも今、すっごくつらい。

なんで私、靖人から逃げなきゃいけないんだろう。

会いたいのに。


でも私が会いたい靖人は、これまでの靖人なんだよ。

もう戻ってこない、私がなにも知らなかったときの靖人。


今の靖人には、会えない。

それがさみしい。





インタホンに指をかけて、引っ込めた。

そんなことを何度か繰り返し、やっぱり帰ろうと思い直す。


せっかく早く帰ってきたんなら、たまにはゆっくり休んでほしい。

部屋の中は明かりがついていて、健吾くんがいるのがわかる。

なにもない喉元に手をやって、冬だったら服で隠しようがあったのにと、しょうもないことを考えた。


そのとき、ドアが開いた。

出てきた健吾くんが、目の前にいた私に気づき、ぎょっとして足を止める。



「びっくりした、なんだ、郁か!」



本気で驚いたらしく、スーツ姿の胸を押さえている。

帰ってきたばかりなんだろうか。



「上がれよ、どうした?」

「あの…でも、どこか行くとこだった?」

「コンビニ行ってくるだけだよ。煙草切らしてんの忘れてて。お前、濡れてんじゃん、上がってシャワー浴びてろよ」



頭をくしゃっとされて、そのなじみのある感触にほっとして。

安心したら、泣けてきた。



「おい…郁?」

「ごめん、あの、やっぱり帰る」

「郁」



腕を掴んで引き戻される。

健吾くんが私の顔をのぞき込んで、優しく笑う。



「勉強、うまくいかなかったか?」