「ドタキャンすんなよ」

「あんたのせいで、夏のアバンチュールが消えたかも」

「卒業までねえんだろ?」

「嬉しそうだね」



否定も肯定もせず、薄く笑って頬杖をついている。

なにがそんなに楽しいんだ。



「しよ、ってかわいく言えばいいじゃん」

「いいんだって、健吾くんがもう、しないって言ってるんだから。てか教室でそういう話しないで」

「つまりは、ガキじゃ物足りないってことじゃね?」



私は身体ごと後ろを向くと、靖人の机の端を、ぐいと向こうに押すように持ち上げた。

傾いた机から、中身がざーっとこぼれ出る。



「てめ!」

「最低、ざまみろ」



教科書やらノートやらで足元を埋め尽くした靖人が、仕返しに椅子の脚を蹴ってきた。

拾うのを手伝いもせず、後ろから聞こえてくる悪態を無視した。

ふん。

と、そのとき携帯が震えた。





「健吾くん!」

「そんな走るなよ、まだ時間あるし」

「びっくりした、電話嬉しかったよ」

「そ?」



待ち合わせた、学校の近くの喫茶店のドアを開けながら、スーツ姿の健吾くんがにこりと微笑む。

たまたま仕事で近くまで来たからと、電話をくれたのだ。



『すぐ出てこられるんなら、なんかおごってやるよ』



靖人の教科書を踏んづけながら教室を飛び出したのは、言うまでもない。