恥ずかしそうにそう言って笑うのを、心底うらやましく思った。

自分の気持ちに素直になれて、相手のことも信じられて。

それが一番幸せだよ、絶対。

どっちもできない私は、どうしたらいいんだろう。



「郁実ちゃんは、小瀧くんとつきあわないの?」

「え…」

「あんなに仲いいのに」



本心から不思議なんだろう、首をかしげてそう訊いてくる。

どう答えたものか迷い、ドリンクを一口すすった。



「私…好きな人がいて」

「そうなんだ! え、クラス内?」

「いや、全然違うとこ、校内ですらない…」

「他校の子かあ」



予備校も行っていない私に、どこで他校との出会いがあるんだと自分で突っ込みつつ、それ以上否定もできなくて、曖昧に濁した。

なっちゃんは腕を組んで、うんうんとひとりで納得している。



「そうかあ、小瀧くんは失恋かあ」

「ええっと…」

「まあ、なんでもうまくいくわけじゃないもんね、郁実ちゃんは自分の恋をがんばらないと。微力ながら応援するよ!」



ばしばしと私の背中を叩いて、なっちゃんは番場くんのもとへと戻っていった。

残りのドリンクを飲みながら、どこで勉強しようか悩んだ。

そんなに大きくない図書館なので、どこにいようと彼らの邪魔をしてしまいそうで気をつかう。

用事があると靖人のお母さんに言ってしまった以上、家にいるわけにもいかないし、勉強を理由に健吾くんの誘いを断った以上、バイトするのも気が引ける。


なんだこれ、と悲しくなった。

どこにも居場所がない。

私が悪いのか。

喉の奥が熱くなって、ドリンクが苦く感じる。


私が悪いのか。





バス停からの道を、家まで走った。

小雨がむき出しの腕を濡らす。

ゆっくりしていたら本降りになりそうな、そんな予感のする雨だ。