「番場くん」

「あ、郁実ちゃん、なんか飲もうよ、あっちで」



私が番場くんと会話を交わす前に、なっちゃんが引きずるようにして休憩スペースへと連れていった。



「ごめんね、くじ交換してもらっときながら!」

「いやいや、謝られることひとつもないし」



なぜかおごってくれたヨーグルトドリンクを飲みながら、手を合わせるなっちゃんを慌ててやめさせる。



「つきあってるの? よかったじゃん、番場くん面白いし」

「ううん、まだそこまではいってないんだけど」



なっちゃんは赤い顔を上げ、恥ずかしそうに笑う。



「1年生のときから好きだったって言ってくれて、でも私好きな人がいるって言ったら、それでもいいから、休み中も会いたいって」



番場くん、積極的!

バレー部と落語研究会を兼部、というわけのわからないステータスそのままに、爽やかで愉快なムードメーカーだ。



「小瀧くんは望みないってわかってたし、ちょっと、一緒に過ごしてみようかなって」

「え、望みないって、なんで?」

「だって小瀧くん、郁実ちゃんのこと好きでしょ」

「え!」



私は焦った。



「あれ、な、なんで、聞こえてた?」

「えっ、なにが?」



なっちゃんがきょとんとする。

あれ?



「あの…誰がそう言ってたの?」

「誰も言ってないけど、一目瞭然だよ。小瀧くんがあんなふうにかまうの、郁実ちゃんだけだもん」



そ、そうだった…?

私、靖人のなにを見ていたんだろう。



「片想いでもよかったんだけどね。番場くんの一生懸命なの見てたら、想われるのっていいなあって、やっぱり思って」