健吾くんが初めて”好き”と言ってくれたのは、けっこう前。

つきあうことになって、わりとすぐの頃だった。


その頃、私はまだ勢いがあって、怖いものなんてなかったので、しょっちゅう健吾くんに好き好き言っていた。

健吾くんはあきれつつ、でも楽しそうに笑って、いつも『はいはい』とか『ありがと』とか言いながら聞いてくれていた。



『はい、そこで着替えない』

『それ、なんでなの?』



始まりが始まりだっただけに、この人の前で隠すものなんかもうないだろうと考えていた私に対し、健吾くんは厳しかった。

堅物の女教師よろしく、肌を出すな、見えるところで着替えるな、風呂上がりには服を着てから出てこいと口うるさい。

ちょっと制服を脱いで、スエットをかぶろうと思っていただけの私は、このくらいいいじゃんと思いつつバスルームに向かった。



『当然の節度だろ』

『エッチしてない男女のってこと?』

『そう』

『じゃあ、そろそろしようよ』



着替えて部屋に戻ると、たまに買って帰ってくる漫画雑誌を読みながら、健吾くんが『ダメ』ときっぱり言う。

そのときはまだ、卒業まではしないというルールが明確じゃなかったので、私はいつそのときが来るのかなと正直、会うたび楽しみにしていたのだ。

当然、ほんとに私のこと好き? となる。

使ってみたかったんだね、そういうフレーズ。

背後から抱きつき、雑誌をのぞく。



『健吾くん、大好き』

『そっか』

『健吾くんは?』

『うん』

『うんじゃなくて』



体重をかけて、わかりやすくせがむ。

ずいぶん長いこと同じページを読んでるな、と思われた健吾くんは、やがて顔を上げ、私のほうを振り返り。



『好きだよ』



そう微笑んで、軽いキスをくれたのだった。

初めてもらった言葉に、私は舞い上がった。

今思えば、あの頃は素直に、いろんなことを信じられた。

ひたすら健吾くんだけ見ていれば、幸せだった。