「…でも、私は、健吾くんが好きで…」

「知ってるよ、そんなの」

「なら…」

「言うなよって? ほんと自分勝手だよな、お前も健吾くんも」



健吾くんのことを持ち出されたせいで、頭が少し冷えた。

私のことならともかく、健吾くんは今、関係ないじゃないか。

じろっとにらむと、靖人が冷ややかに見返してくる。



「なんで"つきあってるから"って言わないんだ?」

「え…」

「健吾くんのこと、なんだと思ってんの。他の男と手つないでも気にしない? そんな奴いるか。お前が思い込んでるだけだろ」



そこまで言われながら、まだ手をつないだままだったことに気づき、振りほどいて引っ込めた。

靖人は気にする様子もなく、自由になった手をデニムのポケットにかける。



「健吾くんは、普通に不愉快になってくれると思うぜ。花火のときだって、俺がもうちょっとお前に近づいてたら嫌がったと思う。そういう空気は出てた」



そんな…。

健吾くんがそんなこと、するだろうか。

あれ、私…。

なんで靖人に、こんなこと言われているの。

言い返すこともできない私に、「なあ」と靖人がため息をついた。



「お前より俺のほうが健吾くんを信じてるって、おかしくない?」



風が鳴った。

もしかしたら耳鳴りかもしれなかった。

私、信じてない?

健吾くんのこと、信じていない?



「…だって、自信が」

「自信がないのと相手疑うのは違うだろ。お前は信じきれてないだけだ。あんな大人が自分なんかに本気になるわけないってどこかで思ってる」

「そんなことないよ」

「ああそう? だったらなんでお前、いつもそんな不安そうなの」



靖人の指が、私の鎖骨の間に触れて、ペンダントを持ち上げた。

どうしてそんな言い方するの。

怖いよ、靖人。



「勝手なイメージ押しつけられて、健吾くんも窮屈だろうな」

「靖人にそこまで言われたくない」

「俺だって言いたくて言ってねーわ。お前がどれだけ鈍くて勝手で残酷かってのを、わからせてやってんだよ」



涙が出そうだ。