靖人が足を止めた。

感じた気配に、ひやりとした。

靖人が怒っている。

めったにないことで、私にはすぐわかる。

つないだ手を、ぐっと握られた。



「それ、俺の台詞なんだけど」



やっぱり、相当怒っている。

靖人のこんな押し殺した声、聞いたことない。



「靖人…?」

「俺のほうが言いたいよ。ずっとお前は俺といるんだと思ってたよ。それがなんだよ? 健吾くんとか、わけわかんねえ奴いきなり登場させやがって」

「えっ?」

「お前が先に離れてったんじゃねーか、なにがさみしいだ。バカにしてんのか、俺のこと」



月が淡く照らす、獣道に近いような小道で、茂みに脚をくすぐられながら、ようやくこっちを向いてくれた靖人の顔を見た。

いつもの、あきれながら私を叱るような、そんなのとは全然違って、明らかに、全力で腹を立てている。

あれ、なんで?



「あの…」

「俺、マジで青井さんの気持ちわかる。そのくらい言ってやりたくもなるよ。これだけきつい思いさせといて、なにそっちは幸せにやってんだよって」

「え…?」

「ほらな、そうやって全部こっちに言わせんの。そのくせ応えるわけでもない、むしろ言われてショックみたいな顔するんだよな」

「え、え、なんの話?」



してもいないことで責めないでほしい。

つないだ手を引っ張って、説明が足りないと訴えると、靖人は今度こそ頭に来たようで、語気も荒く言い捨てた。



「お前が好きだって話だよ、間抜けなことに、もうずっと」



急に、風が強まった気がした。

でもさっきからこのくらいだったかも。

よくわからない。


なにを言われたのかも、わからない。

頭の中が真っ白になって、なにも考えられなかった。

靖人の声だけが繰り返し響く。


お前が好きだって話だよ。

お前が。

もうずっと。