定規を回収するついでに、ベッドに寝転がった。

さっき助けてくれたお礼を言おうと思っていたのに、忘れた。

定規を竹刀みたいに両手で持って、天井に向ける。


そういうわけで私と健吾くんは、キス止まり。

兄のいない夜は、行けば泊めてもくれるけれど、ほんとに一緒に寝るだけだ。

たまに、ちょっとドキッとする経験者っぽいキスをくれたり、思わせぶりに腕とか脇腹をなでたりするけれど、やっぱりそれだけ。

いつ来るかいつ来るかとこっちがわくわくしているのを知っているので、そんな私を観察して、愉快そうに笑っている。


こんちくしょ。

真面目か。





学校での私は、ハブというほど悲壮ではないけれど、ぼっちというにふさわしいくらいには仲のいい子がいない。

部活にも入っていないし、買い食いや寄り道を基本しないので、気がついたらそうなっていた。

でも仲の悪い子がいるわけでもなく、おはようバイバイ、宿題やった? くらいの会話はするし、女の子から苗字にさん付けされるような遠い存在にはさいわい、なっていない。



「クラス合宿の出欠とるよ、合宿所は一応予約したから」



最後の授業が終わったとき、ホームルーム委員の男の子が、半切りのプリントを配布しはじめた。

"参加【する・しない】"という端的な内容で、迷わず【する】に丸をつけようとしたものの、ちょっと待てよと悩む。

みんなでわいわい、楽しそうなんだけど、その日がもし健吾くんの家に泊まれる貴重な日だったらと思うと…うーん。

開催は8月の夏休み中だ。

兄のシフトが出るのは、まだ先。



「おい」

「ひっ」



椅子を下から蹴り上げられて、思わずすくみ上がった。

振り向くと、靖人がこちらをにらんでいる。



「迷ってんじゃねーよ、一択だろこんなの」

「わかったよ、うるさいな」



見透かされた。

氏名を書いて、【する】に丸をつけ、靖人の分も重ねて前に回す。