「健吾くんは、こんなの気にしないよ」



私が靖人と手をつなぐくらい、仲いいんだな、で終わりだろう。

そう伝えると、靖人はちょっと眉を上げて、「ふうん」と気のなさそうな相槌を打った。



「花火のときさあ、そっち、なんかあった?」

「やっぱり、わかった?」



再び歩きだしてすぐ、茂みの中から、なにかが迫ってくるような音が聞こえて、思わず靖人の手をめいっぱい握りしめてしまう。

さすがの靖人も「いてーっ!」と声を上げた。



「あんなのに引っかかるな、どう考えても加工した音だったろ!」

「面目ない…」



わかっていても、怖いのだ。

痛めた手で私を引っ張りながら、靖人が話を戻す。



「俺、あの日、帰ろうとしてた青井さんと、鉢合わせしてさ」

「えっ、なにか言ってた?」

「いや、泣いてたから」



なにも言えなくなってしまった。

私はあのとき、明るくさばさばした美菜さんが見せた、揺らぎそのものにもびっくりしたんだけど。

それ以上に、大人でも恋愛すると、あんなふうになるんだということに、すごくショックを受けたのだった。

大人の恋は、もっと気持ちとか押し隠して、スマートに進んでいくんだとばかり思っていた。

言わなくても伝わったり、だからあえて全部は言わなかったり、お互いの心を読み合って、探り合って、そんな高度なゲームみたいに繰り広げられるものだと、なんとなく想像していたのに。



「あんな大人な人でも、泣くんだね…」

「健吾くんの反応は、どうだったんだ」

「呆然としてた」

「全然気づいてなかったってことか?」

「それがね…」



気づきたくなかっただけだという美菜さんのきつい指摘を伝えると、靖人が深々とため息をつき、「わかるわ」と言った。



「前に、健吾くんのこと、残酷って言ってたんだよね、美菜さん」

「それもすごくわかる」

「靖人は健吾くんに点が辛すぎなんだよ」

「そういう意味で言ってんじゃねーよ」



じゃあどういう意味よ?

訊きたかったけれど、突如真横に現れた、ぼうっと光る大きな鏡の仕掛けに絶叫して、忘れてしまった。



「しっかりしろよ、お前が映ってるだけだろ」

「もう嫌だ! ちょっと番場くんシメといて!」

「わかったわかった。いい出来だったって言っとくから」

「なんで靖人は怖くないんだよう…」