「驚かせんな、なんだ!」

「な、な、なんか、さわった、ざわって、なんか、か、顔!」



腰を抜かして、靖人にすがりつく。

ガタガタと震える私を置いて、靖人は冷静に、通り道に戻ってあたりを見回した。



「あった、これだ」



一瞬、なにもない空間を掴んでいるように見えたんだけれど、目をこらすとわかった。

木と木の間に糸が渡され、そこにあの、縦に裂けるシャラシャラしたビニールテープが垂れ下がっている。



「なんで靖人、気づかなかったの」

「気づいたよ。なんか邪魔なもんがあるなと思ってよけて通った」



私が気配に鈍いのか、身長の差か。

道の隅にしゃがみ込んだまま、私は絶望した。



「この肝試しって、そういう系…?」

「みたいだな」



てっきり、暗い夜道を歩くだけかと思っていた。

靖人が同情気味にこちらを見る。

なにを隠そう私は、お化け屋敷でパニックを起こし、ベニヤの壁を突き破った過去を持つ。

そのとき一緒にいたのも靖人だ。

あんなに恥ずかしい思いをしたことないって今でも言われる。

目の前に靖人がしゃがんだ。



「リタイヤする?」

「いや、がんばるよ…せっかく番場くんが準備してくれたんだし」

「怖すぎて無理っつっても、あいつは喜ぶと思うけど」

「さすがに情けなくてそこまでは言えない」

「じゃ、行くか」



靖人について、砕けそうな膝を叱咤しつつ立ち上がり、恥を忍んで「あのさぁ」と声をかける。



「なに?」

「手つないでくれない?」



もじもじしながらそう頼んだときの、靖人の顔ったらなかった。

いったいいくつなんだよ、とありありと表情に出し、げんなりした様子でこちらに手を出してくれる。



「ん」

「ごめん…」

「俺じゃなくて、健吾くんに謝っとけよ」



渋い顔でそう言われる。