「今日、ごめんな」

「え?」

「青井がお前を誘うって言いだしたとき、止められなくて。お前の立場が微妙なの、わかってたのに」



頭上で大きな金色の花火が弾けた。

一拍遅れて、破裂音が身体の中まで揺らす。



「…平気だよ。楽しいもん」

「郁はいい子だから、誘ったら断れないだろうってわかってたし、なんか理由つけて、来るのやめようかとも思ったんだけどさ」

「やめてよ、そんなの」



私、そんなことしてほしいんじゃないよ。

健吾くんが友達とこういうところに来るの、好きなの知ってるし、それを邪魔したい気持ちなんて、これっぽっちもないよ。

慌てる私をなだめるように、「わかってるよ」と健吾くんが笑った。



「それも嫌だろうから、ならいっそ、一緒にその場にいちゃったほうが、郁も気が楽かなと最終的には考えたんだけど」



それは…合っている。

なんだかんだ言いつつも、美菜さんと健吾くんはどうやっても客観的に見て、"いい同僚"な距離感だ。

ひとりで悶々と嫌な想像をしているよりは、そのつきあいを目の前で見ているほうがいいに決まっている。



「あの、ごめんね、いろいろ気をつかわせちゃって」

「俺、ほんとに青井とはもうなにもないよ」

「うん、それはわかってる、大丈夫…」

「郁はすぐ"わかってる"とか"大丈夫"とか言うんだよな、口だけ」

「口だけじゃないよ!」



いや、けっこう口だけな気もしてきたけど!

憤慨すると、健吾くんが疑わしそうな横目を投げてくる。



「どうだかなあ」

「もう少し信用してよ」

「お前こそ俺のこと、もっと信用しろよ。聞き分けよすぎなんだよ、普段から」

「そんなこと言ったって…」

「言っても仕方ないとか勝手にあきらめないで、とりあえず言えよ。少なくとも俺はそうしてくれたほうが嬉しい」



この間のことだ、とぎくっとした。

話したがっていたのは自分なのに、いざこうして話題にされると、言いたいことが見つからない。