彼氏彼女がいればまずこの花火大会に来る、もしくはここに誘うのをきっかけに告白する、というのは地元の中高生の王道だ。

人混みを歩きながら、いやー、と健吾くんが首をかしげた。



「男友達と何人かでわいわいってのはあったけど」

「健吾くんて、高校までは意外とおとなしかったんだ?」

「高校まではってなに?」

「なんだろね」



とぼけると、手を取られる。



「手熱いよ」

「酔っ払った」

「嘘、そんなに飲んでないじゃない」



健吾くんはお互いの指を交差させる握り方に変えて、くいと私を引き寄せた。



「でも酔っ払ってる」



微笑みが近づいてきて、唇に触れる。

珍しいな、人目のあるところで、健吾くんがこんなことするの。

忙しいのも終わったし、楽しいんだろうな、今日。



「お酒のせいにするなんて、ずるいよ?」

「じゃあなんのせいなんだよ?」

「そこは、私でしょう」



人の波から少し外れたところで、ささやき合いながら軽いキスをたびたび交わす。

これじゃほんと、ふたりの世界に入っちゃっているカップルだ。

まあいっか、私たちだけじゃないし、暗いし。

健吾くんがおかしそうに笑った。



「なんだその自信」

「健吾くんの心を代弁してるだけだよ」

「俺の心はなんて言ってんの」

「郁と過ごせて嬉しいなって」

「ずいぶん控えめだな」



くすくす笑って、頭を優しくぶつけてくる。

いやにご機嫌だなと見ていたら、目が合った。