「じゃ、乾杯」

「この席を一度味わっちゃうと、レジャーシートには戻れないのよねえ」

「今年も予約サンキューな」



私と靖人はコーラで、大人ふたりはビールで、缶をぶつけ合う。

白いガーデンチェアにゆったり腰かけて、ショートパンツから出た長い脚を組んだ美菜さんが靖人に笑いかけた。



「いきなり誘ってごめんね、遠藤っていう奴が来る予定だったんだけど、急にダメになっちゃって」

「や、むしろこんな席タダで来させてもらって」



靖人がその脚を見ないように見ないように、細心の注意を払っているのがわかる。

青少年の苦悩だ。

この花火大会は、美菜さんいわく『4人席だから、毎年一人、ゲストを招くのよ』ということで、私はもとから数に入れられていた。

今日の昼間、窓越しに靖人が助けを求めてきたところによると、おばさん経由で靖人に誘いが来たらしいのだ。



『青井さんに直接返事することになってるんだけどさ』

『小瀧家と青井家、いつの間にか親密になってるね』

『どうしよう』

『え、来なよ。一年前から予約するらしいよ、あのテーブル席』

『行っていいわけ? 俺がいたら、お前は俺とセットで扱われるんだぜ、絶対』



そこでようやく、靖人がなにに引っかかっているのかわかった。

なんだかんだ優しいな、こいつ。



『いいよ、美菜さんの前では、健吾くんとそんなにいろいろ話せないし。だったら靖人がいてくれたほうが楽しい』

『…そうか?』



というわけで、こんな不思議なメンツが実現したのだった。

空が藍色に染まった頃、第一陣の花火が打ち上がり、歓声が湧く。



「地区予選、盛り上がったんだってね」

「そうだ、商業倒したんだよな、すげえよ」



テーブル席の特典としてついてくる、チキンやポテトのバスケットからめいめい好きに食べながら、おしゃべりをする。



「向こうの一打線目が、いい感じにうちをナメてくれてたのが助かったんですよね」

「うちの会社、地元の人間多いからさ、最近ずっとケーブルテレビついてんだぜ」

「いくもテレビの前で応援してたもんね」

「母校で、しかも知ってる子が出てたらなあ。そりゃ見ちゃうよ」