言われなくても忘れないよ。

午前中の授業と、終業式とは名ばかりの簡単な集会を終え、開放的な気分で帰路につく。

このまま勉強というのも芸がないので、どこかでバイトでもしていこうかなあ。



「お前、意外といい写真撮るな」

「でしょでしょ」



卒アル委員に預けられている一眼のカメラで、私が撮った野球応援の写真を見ながら、靖人が感心したように言った。

見づらそうにしているので、手をかざして影を作ってあげる。



「臨場感あるでしょ、夏! って感じで」

「うん、これ使えそう…って、なに撮ってんだ」



あ。

最後の試合で、泣き崩れている部員たちを撮ったのが見つかった。



「青春の1ページだよ」

「なんで俺だけアップなんだ」

「卒アル委員だけに、みんなを撮ってばかりで、自分の写真少ないかなと思って…」

「だからって」



本当言うと、じっと涙をこらえている様子に胸を打たれたのだ。

先攻だったから、試合終了時の靖人は、キャッチャーの恰好をしている。

隣のクラスのピッチャーの子の背中を叩いて、自分も目尻を赤くしている姿なんか見てしまったら、ついズーム機能を試してしまうというものだ。

私だってこのとき、泣いていた。



「はい、削除」

「ダメだよ、むしろアルバムに採用してよ!」

「するか!」



バス停の屋根がつくる、なけなしの日陰の下で、そんなすったもんだをした。

長い休みが始まる。





まだ日が残っている川岸に、人々がシートを敷いて集まっている。

私たちは少し離れた土手の中腹に設けられたテーブル席で、開催の合図である小さな花火がポンポンと空で弾けるのを聞いていた。

私たちというのは、健吾くん、美菜さん、私、そしてなぜか、靖人だ。