「え…?」

「いっちょまえに駆け引きしてんじゃねーよ」



お互い目も開いたままの、なんのムードもないキスだった。

健吾くんは真顔のまま言い捨てると、ごろんと寝返りを打って向こうを向いてしまう。



「え、健吾くん」

「バーカ、郁のバカ、もういい、帰れ」

「ちょっと待ってよ、どうしたの」

「俺だって」



腹立たしそうな声が言う。



「ほっとかれてさみしいのなんか、俺だって同じだ」



タオルケットを丸めて抱えて。

顔を埋めるようにして、ふてくされた声で。

言わせるなよ、って背中で文句を垂れている。


ああ、私。

自信を持たなきゃ、ほんとに。


誕生日だから、なんて義務感じゃなくて。

会いたいから来てくれたんだよね。

一緒にいたいから、来いって言ってくれたんだよね。



「健吾くん…」



肩を揺すっても、返事はない。

絶対起きているはずなのに。

かっこいいのに、かわいくて愛しくて、きっと眠気のせいで熱い背中にぎゅっとくっついた。



「夏休み、私といっぱい遊んでね」



返事の代わりに、脇腹に置いた私の手を、ぽんぽんと叩いてくれた。





「さあ、LSVだね!」

「…ラスト…?」

「サマーバケーション」

「浮かれてんな」

「健吾くんもちょこちょこ休み取ってくれるって言うんだもん」

「俺ら、受験生だぞー」