「わり、俺、会社戻らないと」

「え、戻るの? 今から?」

「先週からめちゃくちゃ忙しくて、今も実は二徹に近い状態で、もう吐きそう…」

「ええ!? そんなんで運転して大丈夫?」

「逆、運転でもしてないと正気保てない」

「無理しないでね…」



って、もうしているよね、どう見ても。

身体を離した健吾くんが、優しく微笑む。



「言い訳にもならないけど、そんな状態だったから、連絡する余裕もなくて、ごめん」

「ううん…」

「実は一度電話したんだけど、つながらなくてさ」



うわ、やっぱりくれてたんだ。

ちょうど携帯がダメになっていたときだろう。

こうしている間にも暮れていく日を、気がかりそうにちらっと見て、健吾くんがうかがうように訊いてきた。



「今日、予定ってどんな感じ? その、兄貴のとか」

「えっ? えーと、朝まで帰らないよ、確か」

「じゃあ、この後、うち来られる?」

「え?」



一緒に車に戻りながら、思わず聞き返した。

健吾くんが慌ただしくドアノブに手をかける。



「日付が変わる前に絶対帰るから。改めてちゃんと、おめでとうって言うから。ついでに言うと昼間のうちにケーキ買ってある」

「でも、疲れてるんじゃないの…?」



押し寄せる嬉しさに混乱して、おろおろとそんなことを言う私を振り返り、開けたドアに腕を乗せて、健吾くんは厳しい声を出した。



「誕生日くらい、聞き分けとかいいから、わがまま言え」



言ってるよ、いつだって。

健吾くんが聞いてくれるから。

私、普段から十分わがままだよ。

止まったと思っていた涙がまた、ひと筋こぼれる。



「…じゃあ、部屋で待ってる」

「うん」

「泊まる」

「いいよ、明日の朝も俺、早いけど」