「靖人ってば」



なかなか顔を出さないので、本棚の上から1メートルの竹の定規を取ってきて、それを靖人の部屋のカーテンに突っ込んでめくった。

とたん、シャッとカーテンが開いて、定規を奪い取られる。



「お前な!」



現れた靖人が、汗だくの上半身をさらしていたので、私はびっくりした。



「ごめん、タイミング悪かった」

「そういう問題じゃねえよ、どんなときでも人の部屋はのぞくな!」



取り上げた定規で、私の頭をぺんと叩いて、投げ返してくる。

定規は部屋の奥のベッドの上に、上手に着地した。



「1時間以上走ってたね」

「シャワー浴びてきたかったのに…くそ」

「いい身体だねえ」



窓枠に肘をついて、鍛えられた運動部の肉体をしげしげと眺めると、Tシャツをかぶりながら靖人が嫌そうな顔をした。



「お前がそういうこと言うと、生々しいからやめて」



私だと生々しいってなんだ。

と考えて、あっと気がついた。

そうか、靖人、誤解してる。



「いいこと教えてあげる」

「別にいい」

「私と健吾くんは、まだエッチしてません」

「えっ」



やっぱりそこに誤解があったらしい。

靖人は目を丸くすると、食いついてきた。



「え、お前ら、もうどんくらい?」

「去年の冬からだから…半年くらい?」

「相手社会人だろ? そんなもん?」

「だって健吾くんがダメって言うからさ」