「ほら。買ってきたぞ」


彼が袋から取り出してこちらに投げて寄越したのは、意外にもマスクだった。

あんなに嫌そうな顔をしていたのに。

苛ついてそのまま帰ったと思ったのに。


驚きすぎて何も言えず、手にしたマスクの袋をじっと眺める。


「……なんだよ。何ぼうっとしてんだよ。そのマスクは気に入らないとかふざけたこと抜かすんじゃないだろうな」


私はふるふると首を横に振った。

それから「ありがとう」と頭を下げる。


青磁は、ふん、と鼻を鳴らして隣のブランコに座った。


少し横を向いて顔を見られないようにしてから、パッケージを開いてマスクを取り出す。


マスクをつけると同時に、言葉にできないほどの安堵感に包まれた。

例えるなら、下着一枚で人の目に晒されていて、やっと服を身に纏うことができた、というような、圧倒的な安心感だった。


全身から力が抜けるような感じがして、今までひどく緊張した状態だったのだと気がついた。


ふう、と息を吐いて顔をあげると、青磁がじっとこちらを見つめている。


「いつから? なんで?」


え? と首を傾げると、「それ」と青磁が私に指先を向けた。


「マスク。なんで?」


少し考えてから、


「……分からない」


と答えた。

本当は分かっていたけれど、言えない。言いたくない。