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三時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、みんなが一斉に動き出す。
四時間目は音楽なので教室を移動するのだ。
私も教科書と縦笛を持って立ち上がった。
沙耶香のほうをちらりと見ると、他の女子と携帯の画面で動画を見ながら笑っていた。
教室移動のときは沙耶香と行動することが多いけれど、別に約束をしているわけでもない。
だから、黙って背後に突っ立って彼女を待つのも情けないと思って、私は一人で教室を出た。
音楽室は上の階の東側にあるので、みんなは東階段をのぼっていくけれど、私はその流れに乗る気になれなくて、あえて遠回りになる西階段を選んだ。
こちらの階段側は授業に使われる教室がほとんどないので、人はあまりいない。
休み時間の喧騒が遠ざかるにつれて、ほっと肩の力が抜ける感じがした。
階段に足をかけたとき、ふと、細く甲高い音が聴こえてきた。
首を傾げながらのぼっていき、踊り場で折り返した途端に、私はマスクの中で顔が歪むのを自覚した。
あの後ろ姿を見間違えるわけがない。
ほっそりとした猫背、色の無い髪。
青磁だ。
最悪、と心の中で毒づいた。
でも、今さら東階段に戻ったら授業に遅れかねない。
仕方がないので、彼に気づかれないように距離を置いて、私はそろそろと階段をのぼった。