たぶん十メートル以上も離れているけれど、私たちの視線が確かに絡み合うのを感じた。
青磁は驚いたように足を止めて、呆然とこちらを見上げている。
それからゆっくりと踵を返した。
どくんと心臓が音を立てる。
青磁はきっと、帰ろうとしている。
私に会わないように、ここから立ち去ろうとしている。
また、私の前から消えようとしている。
それが分かった途端に、私は声をあげていた。
「――青磁!!」
大声で呼んだつもりだったけれど、声はかすれは震えてしまって、マスクに吸収されてしまった。
今度は深く息を吸って、もっと大きな声で叫ぶ。
「青磁! 待って!」
たぶん、彼には聞こえたと思う。
出口に向かう彼の肩が、少し震えた気がした。
それでも青磁は振り向いてくれなかった。
私の声は、増えてきた来場客たちのざわめきに包まれて、すぐにかき消されて聞こえなくなった。
青磁の姿が光に包まれて薄らぐ。
消えてしまいそうだ。
だめだ、こんな声では届かない。
彼の心まで届かない。
彼の足を止めることはできない。
こんな声では、マスク越しの声では、だめなんだ。
手すりをつかむ指が、かたかたと震え出した。
目の奥が熱くなって、視界が滲む。
怖かった。
たくさんの人がいるこんな場所で、素顔をさらすのは、鳥肌が立つほど怖かった。
でも。
青磁が消えてしまうのは、もっと怖い。
青磁は驚いたように足を止めて、呆然とこちらを見上げている。
それからゆっくりと踵を返した。
どくんと心臓が音を立てる。
青磁はきっと、帰ろうとしている。
私に会わないように、ここから立ち去ろうとしている。
また、私の前から消えようとしている。
それが分かった途端に、私は声をあげていた。
「――青磁!!」
大声で呼んだつもりだったけれど、声はかすれは震えてしまって、マスクに吸収されてしまった。
今度は深く息を吸って、もっと大きな声で叫ぶ。
「青磁! 待って!」
たぶん、彼には聞こえたと思う。
出口に向かう彼の肩が、少し震えた気がした。
それでも青磁は振り向いてくれなかった。
私の声は、増えてきた来場客たちのざわめきに包まれて、すぐにかき消されて聞こえなくなった。
青磁の姿が光に包まれて薄らぐ。
消えてしまいそうだ。
だめだ、こんな声では届かない。
彼の心まで届かない。
彼の足を止めることはできない。
こんな声では、マスク越しの声では、だめなんだ。
手すりをつかむ指が、かたかたと震え出した。
目の奥が熱くなって、視界が滲む。
怖かった。
たくさんの人がいるこんな場所で、素顔をさらすのは、鳥肌が立つほど怖かった。
でも。
青磁が消えてしまうのは、もっと怖い。