重苦しい沈黙が二人の間に漂う。


気まずさに私は彼女から顔を背けた。

両手でマスクの縁を押さえる。


空き教室の埃っぽい匂い。

窓から射し込む冬の陽が、傷んだ床板を弱々しく照らしている。


私のほうにじっと視線を向けていた沙耶香が、口を開く気配がした。


「……茜、もしかして、マスク……」


マスク外せないの?

依存症?


そんな言葉が続くのは明らかだった。


それを言われてしまったら、私の中のなにかが崩れてしまう。

今まで築き上げてきた私が壊れてしまう。


「やめて」


かすれた声で叫ぶように私は彼女の言葉を遮った。


放っておいてほしかった。

見て見ぬふりをしてほしかった。


こんなぺらぺらの紙一枚に依存して、外せなくなってしまった情けない自分を、知られたくなかった。


でも、沙耶香は私の願いを叶えてくれない。


「マスク外せないの? 大丈夫?」


私が今いちばん言われたくないことを、彼女ははっきりと口にした。


かっと頭に血が昇るのを感じた。

頬が引きつるのを我慢できない。


醜く歪んだ顔で、私は沙耶香を見据えた。


「うるさい……ほっといて!」


もう私に構わないで。

それなのに、沙耶香が手を伸ばしてくる。


その手を、さっきよりも容赦なく振り払って、私は叫んだ。


「触らないで!!」


ああ、言ってしまった。

でも、後悔しても遅い。


唖然としている沙耶香を横目に、私は教室を飛び出した。