「あはは、茜ってば照れちゃって~」


からかうように言われて、恥ずかしくなって「照れてないよ」と返す。

すると沙耶香が、「うそつけ」とおかしそうに笑って、ふいにこちらに手を伸ばしてきた。


その瞬間、嫌な予感にとらわれる。

彼女の手が、私の顔へとまっすぐに向かってきたからだ。


「照れてないとか言って、顔、真っ赤になってるんじゃないの?」


沙耶香がなにをしようとしているのか悟る。

ほんの数秒前までの、恥ずかしいけれど浮わついたような気持ちが、一瞬にして凍りついた。


反射的に身を引く。

でも、間に合わなかった。


沙耶香の手が私のマスクをつかみ、さっと引き下げた。


どくん、と大きく心臓が波うった。

激しすぎる動悸に聴覚が支配されて、どくどくという脈の音しか聞こえなくなる。


息が苦しい。


頭が真っ白になったまま、私は沙耶香の手をばしっと振り払い、マスクを付け直した。


ぜえぜえと激しく喘ぐ自分の呼吸音が耳障りだ。


「え……っ、ごめん」


沙耶香はぽんとしていたけれど、私の行動の理由に気がついたのか、手を引っ込めて謝ってきた。


彼女が悪いわけではない。

マスクを外されたくらいで動揺して混乱する自分が悪いのだ。


分かっているけれど、どうしようもない。


無理やりマスクを外されて、誰にも見られたくない素顔をさらけ出されて、

言葉にならないほどの屈辱感を感じずにはいられなかった。


私にとっては、公衆の面前でいきなり服を脱がされたようなものだ。