私は人を好きになったことがなかった。

もちろん付き合ったこともない。


だから、私が今、青磁に対して抱いている気持ちを、どうすればいいのか分からないのだ。

自分がどうしたいのか、青磁とどうなりたいのか、自分の気持ちなのによく分からない。


ただ、青磁のことが好きだと直感しているだけ。

青磁に会えないと退屈で、隣にいたいと思うだけ。


「……恋愛の好きって、どういうことなのかな。家族とか友達に対する好きと、どう違うんだろう。付き合うって、どういうことなのかな……」


考えているうちに混乱してきて、私は頬を押さえて呟いた。

すると沙耶香がきょとんとしてから、なにかを思いついたようににっこりと笑う。


「それはさ、分かりやすく言うと」


私が、うん? と首を傾げると、沙耶香は今度はにんまりと笑って言った。


「青磁とキスしたいかどうか、だよ」


一瞬、硬直してしまった。

考えもしていなかった言葉が飛び出してきて、思考が停止してしまったのだ。


「え……っ」


キス? と言いたかったけれど、恥ずかしくて言葉に出せない。


本で何度も読んだし、頭の中で復唱するのは恥ずかしくないのに、いざ唇にその単語をのせようとすると、喉が絞られたように声が出なくなった。