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「あ。ここ、誰もいない」
「ほんとだ。じゃあ、ここにしよっか」
昼休み。
沙耶香と連れ立って空き教室をまわり、誰もいない場所を見つけて中に入る。
「なんかレアだなー、茜とお弁当食べるとか」
沙耶香が手近な椅子に座り、お弁当の包みを開きながら言った。
「ええ? そうかなあ」
「そうだよー。ほら、茜って、いっつもどこか別のところで食べるでしょ。それに、たまに教室にいるときも勉強とか本読んだりしながらささって食べちゃうから、誘うのもあれかなって思ってたの」
私はいつも昼休憩のときは、図書室に本を借りに行くというのを口実にして教室を出て、
図書室前の自由コーナーでお弁当を食べている。
理由は簡単だ。
マスクをつけたまま食事をするみっともない姿を、誰にも見られたくないから。
私は「そっか、そうだよね」とごまかし笑いを浮かべながら彼女と同じように弁当箱を取り出す。
声をかけてもらったのをいいことに、誘われるままに来てしまったけれど、一対一で向かい合ってご飯を食べるこの状況に戸惑いを覚えた。
どうしよう、と焦りを覚えながらも、とりあえず、マスクはつけたままで箸を握りしめる。