今はあんなふうになってしまっているお兄ちゃんだけれど、昔は勉強もスポーツもよくできて、友達からも羨ましがられるような兄だった。


小学生のころは地域のサッカークラブに毎日通っていて、

私はお母さんが迎えにいくのについて行ったり、時には試合を応援しに行ったりしていた。


「でね、いつだったかな、ここの河川敷で他のクラブチームと練習試合があったとき、私も観戦しに来て。あのサッカーゴール使ってたなあって、今思い出したら、懐かしくなった」


必死に声を張り上げてお兄ちゃんのチームを応援していた幼いころの自分を思い出すと、笑いがこみあげてくる。

今の私とは正反対だ。


私が思い出話をしている間、青磁は黙りこんでいた。


いつもは私が話をしていると相づちくらいは打ってくれるので、不思議に思って彼の顔を見つめる。

なぜか、少し複雑な表情を浮かべているように見えた。


「どうかした? 青磁」

「いや……」


彼にしては珍しく、歯切れが悪い。

どうしたの、ともう一度訊くと、苦虫を噛み潰したような顔で私を見て、


「……それだけ?」


と言った。


わけが分からなくて、ぽかんとしてしまってから、「それだけって?」と訊き返す。

青磁はやっぱり眉をひそめたまま、


「覚えてるの、それだけ?」


と呟いた。


いつもはっきりしすぎるほどはっきりした物言いをするのに、今日はどうしたんだろう。