「よっしゃ、やるか」


青磁は気合いを入れるように袖を捲りあげながら椅子に腰を下ろし、絵の具の箱を開けた。


隣に座って眺めていると、パレットに絵の具を絞り出していた青磁が、ちらりと私を見た。


「なあ、お前にさ」

「ん?」

「頼み事あるんだけど」


私は耳を疑って「え?」と目を丸くした。

青磁が私になにかを頼むなんて、ちょっと考えられない。


「なになに、どんな頼み事?」


あんまり珍しいので、興味を引かれて私は先を促した。


「図書室で本借りてきてほしいんだけど」

「本? いいけど。どんな本? ていうか青磁って本とか読むんだ」

「あー、なんでもいいけど……」


青磁はしばらく考えてから、


「んー、じゃあ、色の本」


と言った。


「色の本?」

「なんか、色の種類とか名前とか載ってるような本、あるだろ多分、美術関係の本棚とかに」

「まあ、あるだろうけど」


思いつきのような頼み事に不自然さは感じたものの、図書室は好きなので行くのは面倒でもなんでもないので、「分かった」と私は席を立った。


「あ、茜。荷物全部持ってけよ」

「え? べつにすぐ戻ってくるよ。置いといたら駄目?」

「いや、戻ってこなくていい。一時間後に靴箱のとこに来ればいいから。時間潰しに図書室で好きな本でも読んどけよ」

「……はあ」


なんだかわけが分からないことばかりだけど、まあいいか、と私は荷物を持って図書室に向かった。