青磁がいつものように画材をとってきて、でもいつものように美術室を出ずに、窓際の椅子に座ったので、私もその横に腰を下ろした。


「今日は屋上、行かないの?」

「そりゃそうだろ。こんな日に登ったら、それこそびしょ濡れだぞ」

「そっか。そうだよね」


久しぶりに青磁と一緒に屋上でのんびりできると思っていたのに、なんとなく残念だった。

青磁は今日は油絵を描くつもりらしく、イーゼルを立ててキャンバスを用意しはじめたので、それを視界の端にとらえながら私は窓の桟に頬杖をついて外を見た。


ぱらぱらと硝子を打つ雨の音。

これさえなければ、屋上に行けたのに。


思わずため息を洩らして、


「あーあ、晴れればいいのに」


と独り言を呟いた。

すると青磁がちらりとこちらを見て、


「しょうがねえなあ」


と肩を竦めた。

そのまま立ち上がった背中を、私は首をかしげながら見つめる。


青磁はゆらゆら歩いて前へ行き、部長の里美さんの前に立った。


「あのさ、部長さん」


本を読んでいた彼女は怪訝な顔をあげる。

青磁から里美さんに話しかけるのなんて初めて見た。


「ここ、アクリルってある?」


唐突な言葉に里美さんは目を瞬かせて、ぱたんと本を閉じた。


「アクリル絵の具?」

「そ。ないなら別にペンキでもいいけど」

「いえ、アクリル、確かあるわよ。こっち」


里美さんが席を立って準備室へ入ると、青磁は「どーも」と言って彼女の後についていった。