「茜、行くぞ」


終礼が終わってすぐに、青磁が荷物を持って私の横に立った。

当たり前のように声をかけられて、そんなことは今までに何度もあったはずなのに、なぜか「えっ」と動きを止めてしまう。


「? なんだよ、用事でもあんの?」


怪訝そうに問われて、私は首を横に振る。


「いや……そういうわけじゃ……ないけど」

「じゃあなにもたもたしてんだよ。置いてくぞ」


青磁がさっさと教室を出ていこうとするので、私は慌てて鞄を持って彼の背中を追った。


三歩ほど後ろを歩いていると、また青磁が訝しげな顔で「なんで離れてんの?」と声をかけてくる。

べつに、と答えて私は距離を縮めた。


少しうつむいて、わずかに埃のたまった廊下の端を見ながら歩く。


視線を感じた。

青磁に見られている。


「……なに? じろじろ見ないでよ」


下を向いたまま呟くと、「だって」と不思議そうな声が返ってきた。


「やっぱお前、今日、なんか変」

「………」


言葉につまる。

どう返せばおかしく思われずにすむかと考えを巡らせて、その表情を見られたくなくて青磁から顔を背けたとき、雨に濡れた窓硝子が目に入った。