毎朝ずいぶん遠いところまで散歩してから学校に来ているらしいのに、マフラーを買いに行くだけのことが面倒くさいだなんて、青磁の価値基準はつくづく謎だ。


銀杏並木の間を並んで歩いていると、青磁と反対側の肩をぽんっと叩かれた。


「おはよ、茜」

「ああ、沙耶香か。おはよ」

「青磁もおはよう」

「おー」


沙耶香も肩を並べて三人で歩く。


「ねえ茜、今日って英語会話の小テストあったっけ?」

「あるよ。範囲は第六課」

「わあ、やばい。後で教えてね!」

「はいはい」


ありがと助かる、と笑ってから、沙耶香は私と青磁を交互に見た。


「? なに?」

「ね、二人って、もう付き合ってるの?」


またその話か、とげんなりしてしまう。

青磁のほうをちらりと見たけれど、間抜けな顔で銀杏の木を見上げていて、どうやら気にもしていないらしい。さすがだ。


私たちが放課後一緒にいるところを何人かのクラスメイトに見られて、『青磁と茜がいい感じらしい』という噂がすぐに出回った。

教室でも時々話すようになったし、駅まで一緒に帰ることもあるし、今日のようにたまたま会えば朝も一緒に登校したりするから、そういう噂が出るのは仕方がないかなと思う。


でも、もちろん付き合ったりはしていないので、私は何度訊かれてもすぐに否定している。

青磁のほうは、最初に『茜と付き合ってるの?』と訊ねられたときに『そんなん知ってどうすんだよ?』と返したので、それからは誰も彼には訊いていないようだ。