「さあ、暗くなったことだし、そろそろ戻るぞ」


青磁が立ち上がり、画材の片付けをはじめる。

それを手伝いながら、「本当に綺麗だった」と呟くと、「まだ言うか」と笑われた。


「夕焼けも綺麗だけどさ、朝焼けもすげえんだぞ。お前、見たことあるか」


私はふるふると首を横に振る。

朝焼け、というのは言葉だけは知っているけれど、何時ごろに見られるものなのかも分からない。


「だろうな。お前、人生損してるぞ」


そんなことを言われても、朝は家がばたばたしているし、ゆっくりと空を見る余裕なんかない。

でも。


「見てみたいな……」


ロープを伝って屋上から降りながら何気なく呟くと、下で待ち受けている青磁が「そうか」と答えた。


「なら、今度見に行こう。朝焼けがいちばん綺麗に見える場所に」


なんでもないことのように彼は言う。


普通に考えたら、高校生である私たちが、夜明けの時間帯に外で会うなんて、ありえないことだ。

それなのに、青磁は当たり前のように言う。


だから、私もなんだか当たり前のことのように思えてくる。


「うん、行こう。連れてって」


彼がそう言うのなら、それはきっと社交辞令やうわべの約束なんかじゃなくて、本当に実現されることになるだろう。

そう信じさせるなにかが青磁にはあった。