青磁は硝子玉の瞳で自分の描いた空を見ながらぽつりと言った。


「俺が今まで生きてきた中で……二番目に綺麗だと思ったのが空だから」


二番? と私は首を傾げたけれど、まだ話が続きそうだったので口には出さない。

青磁が今度は本物の空を見上げる。


「この綺麗なものを手もとに置いておきたいから、俺は空を描くんだ」


ふうん、と頷いて、でもやっぱり気になったので、言葉を返す。


「じゃあ、いちばん綺麗だと思ったものは? それは描かないの?」


青磁が静かに視線を下ろして、私を見た。


「……お前、まだ帰んなくて大丈夫なの?」


唐突にそんなことを言う。

答えになってないじゃない、と思ったけれど、つまり答えたくないということかと考えて、私は頷き返した。


「うん。さっきの答え合わせが終わるまで、いる」

「答え合わせ?」

「夕焼けの色。確かめるまで帰らない。日が暮れるまでここにいる」


ふっ、と青磁が笑った。


「お前、やっぱり単純だな」


さっきも単純だと言われた。

でも、さっきは小馬鹿にした口調だったのに、今度は違う。

どう違うかと訊かれても、言葉で表現するのは難しいけれど、なぜか今の青磁は少し嬉しそうにも見えた。