べつに彼らが私に対して特別にそっけないというわけではない。

部員同士で会話をするのもほとんど見たことがなかった。


ここに来るたびに、静かだなあ、と思う。

最初にここに来たのは、文化祭の三日後だった。

帰りのホームルームが終わった後に、なんとなくすぐに下校する気になれなくて、ぼんやりと窓の外を見ていたら、隣の青磁が唐突に声をかけてきたのだ。


『帰りたくないなら、美術室に来れば?』


べつに帰りたくないわけではなかったけれど、美術室という響きに心が揺れた。

文化祭のときに青磁の絵を見て受けた衝撃がまだ抜けていなくて、もう一度見たくなった。


だから、黙って青磁の後ろ姿を追った。


自分が呼んだくせに、青磁は私に構うこともなく、黙々と絵を描いていた。

里美さんは初め、『入部希望?』と訊ねてきたけれど、『違います』と答えたら、『そう。ごゆっくり』と言ってそれきりだった。

他の部員たちも、私のことは空気のように扱った。


誰も私を気にしない。

誰も私を見ていない。


今までは、家にいても学校にいても、常に周りからの視線や関心を感じていて、だからどこにいても私は『私』でいるために努力していなければならなかった。


でも、ここは違う。

誰も私に関心を持っていないし、視線も向けてこない。


美術室は私にとって、唯一の場所になった。

唯一、他人の存在や顔色を気にせずに、私のままの私でいられる場所。