「渡は、この先どうするか決めてんの?」

聞いてから僕は無神経だったかと内心焦った。
渡はまだどこにも進めない状況だ。それなのに、自分の尺度で質問してしまった。
ごまかしたい気持ちで続けて言う。

「僕が開業したら、うちで働く?」

「俺に何ができるんだよ」

「受付嬢」

「馬鹿じゃねえの?」

渡は心底呆れた顔で嘲笑して、その後は考え込む風に真顔に戻った。
僕は渡が皮肉でも笑ったことにホッとしてから訊ねた。

「なんか、思うところがあるのか?」

「考えてみたんだけどさ、このままコンビニ店員は続けないかもしれない」

渡は真面目くさって答える。

「やりたいことがあるとか」

「やりたいのかはわからない。でも………うーん」

渡は言いあぐねているようだ。
僕は「何?」と重ねて聞いたけれど、渡はそこでは何にも答えなかった。

渡が口を開いたのはそれから随分あとで、アーケードのCD店に入ってからだった。

「旅に出てみようかと思うんだ」

渡は相変わらず真面目な顔で言った。

「旅?」

「もちろん、たくさんのことに片がついたらだけど」

たくさんのこととは深空のことだろうか、自分自身のことだろうか。

「どこまでの旅?」

「さあ、でもインドとか…タイとか。ああいうところに行ってみたい」

「どうせテレビとか雑誌で見て影響されたんだろう」

僕がからかうと、「わりーかよ」と実に素直な答えが返ってきた。