*
夏の夕方、その日は駅のロータリーで落ち合った。
夕日がデパートと陸橋の向こう、住宅地のさらに遠くに落ちていく。
都心に出てきて、僕は空を美しく感じたことがない。
東京の空はいつも白く濁り曖昧だ。富山の山沿いは空が劇的に変わる。故郷と比べ、関東の空を愛せないのは至極当然なこと。
しかし、この千葉の街、この場所で見る夕焼けが美しいのは本当だった。
雲の薄い層が蜜柑色に染まり、幾重にも重なる。
ドレープのような水色の空は薄青に変わり、やがて全体が濃い群青に落ちていく。
群青の空にいくつか星がきらめき出し、僕は飽きるまでその空を眺められると思う。
気温は高く、僕と渡はペットボトルを手に、夕食の行先を決めかねベンチに座っていた。
ゆっくりと薄青が暗く変化していく時間帯だ。
「なあ、恒、おまえは大学出たらどうするんだ?」
不意に渡が言った。
「僕?たぶん獣医を目指すよ」
僕は真面目にも答えた。勿論それは本当の夢だった。獣医学部を出て獣医にならない者は割と多い。研究職についたり、企業に就職する者も多い。
「それはいつ決めたの?」
「あー、僕ひとりっ子だからさ。小さい頃から秋田犬の茶太郎っていうのが弟分だったんだ。でも僕が中学の時、病気で死んじゃったんだよね。あっという間でさ。もっと早く気づけたら救えたんじゃないかなって。月並みだけど、それが獣医の志望動機です」
自分のことを話すのはちょっと恥ずかしいので、ふざけて片手をあげて、宣誓するみたいに答える。