それと同時に、僕は胸の内にある醜い感情にも気づいてしまう。

僕は、深空が目覚めた後を勝手に夢想していた。
渡と深空は結ばれない。
それなら、僕が彼女の恋人に立候補することだって可能なわけだ。
でも、渡から奪うようなことはしたくない。それなら、いっそ僕も渡も手に入らないところへ彼女が行ってくれたら……。

「恒」

渡に呼ばれ、僕は弾かれたように顔をあげた。
現実に立ち戻り渡の顔を見つめる。
びっしょりと脂汗をかいていた。心臓が妙な音を立てて鳴っている。

「どうした」

「渡……」

「汗、すごいぞ。やっぱり窓閉めた方がいいんじゃないか?」

渡が訝しげな顔で僕を見ている。僕は慌てて首を振った。

「ううん、なんでもない。少しぼうっとしちゃったみたいだ」

「そっか、花瓶に花活けてくるから、深空のこと頼む」

渡が花束と花瓶を手に病室を出て行く。
僕の鼓動はまだ速いままだ。どくどくと響く胸を押さえ、僕はベッドに歩み寄った。

深空は何も知らない顔をして、眠っている。

「ごめん」

かすれた声で彼女に謝った。

「一瞬でも、妙なことを考えました。あなたに聞こえていたならごめん。忘れてほしい」

今にも瞳を開けそうに見えるのに、深空はやはり深い水底で眠ったままだ。僕のこめかみから頬につるりと汗がつたう。

「僕は……あなたに目覚めてほしい」

深空からの返答はなかった。

渡が戻ってくると、窓を閉め、深空の横で喋りながらケーキを食べた。一時間ほどそうして過ごし、僕らは病室を後にした。