「一応、こういうのって傷害事件になりますよね」

僕は店長に確認の意味をこめて言う。店長がうんうんと頷いた。

「防犯カメラもあるし、警察に行くなら協力するよ」

しかし、渡はどうでもよさそうに首を振るばかりだ。

「いや、面倒事はいいですかね」

「でも、遠坂くん。ストーカーに刺されるなんて事件もあるし、相談くらいはしておいたらいいんじゃない?」

「いらないですよ」

渡は言いきり、替えの制服を羽織った。
どうやらこれ以上言っても無駄であろうことは、僕も店長もわかった。



釈然としないような。そうでもないような。

渡の退勤まで待った僕は、渡と並んでコンビニを出た。
あのストーカー女が近くにいたら厄介だと思っただけで、ちょっとした護衛役のつもり。

「おモテになりますなぁ、渡くん」

「おまえよりかはな」

「お言葉ですが、僕、去年まで彼女いたから」

「大学進学と同時に遠距離になって自然消滅だろ。ありがち」

図星だったので、それ以上反論しない僕だ。
渡が熱烈に女子に好かれるのはなんとなくわかる。整った容姿に、影のある表情。そういうのが好きな女の子はたくさんいる。

渡が女の子と遊ぶ気分になれないのもわかる。
だけど、ストーカーっていう存在は怖いだろう。
警察に届けなくて本当にいいのかな。そりゃ、コーヒーをぶっかけるだけで逃げて行った彼女に、これ以上何かができるかと言ったらできないだろうけれど。

「メシ食いに行く?」

とりあえず、話題の転換に誘ってみる。
渡は首を振った。