数日が経った。
啓治と会った日は随分取り乱していた渡も、その後はすっかり元通りに見えた。
僕らは変わらず、互いの部屋を行き来し、普段通りの生活を続けていた。

その日は特に会う予定があったわけではない。
サークルのメンバーと珍しくカラオケに行き、帰り道に渡の勤めるコンビニに顔を出したのだ。
いるかな?いるなら冷やかして行こう。そんな気分。

あとは、先日のことがあるので、渡が啓治に報復されていないかと心配でもあった。
チェックの意味合いもある。

店内に入り、レジを担当する渡を見つけた。
いるいる。今日も無愛想ながら、立派に働いてるじゃないか。

僕が冷やかし半分で近づこうとした時だ。

レジ前に居た女がいきなり、渡の顔に何かをぶっかけた。
よく見ると、それは缶コーヒーで、渡は顔から胸までびっしょりと茶色の液体に染まっている。
当の本人は無表情に無感動に自分の状態を確認しているじゃないか。

「お客様!!」

怒鳴り声をあげたのは横にいる店員の男性で、この人が店長だと常連の僕は知っている。
ともかく、店長の声をきっかけに女が脱兎のごとく逃げ出した。僕にぶつかり、女の持っていた空き缶が床に転がり茶色の飛沫が円状に散る。
女は転げるようにコンビニを飛び出して行った。細いヒールと柔らかな茶髪。たぶん年は二十代半ばで、OL風の女だった。