たっぷり十五分歩いて渡のアパート前についた時、僕たちはほぼ同時に気付いた。
アパート横、階段の登り口に背の高い男が立っている。
あの時、病院で会った男だ。渡の義姉の兄、啓治という男だ。

僕は、横の渡を見る。
彼は唇を噛み締め、ひどく苦々しい表情をしている。

「渡」

小さな声で渡を呼んだ。渡がどうしたいのか見定めたかった。あの男の言葉を思い出した。

――――悪いことは言わない―――――

啓治が歩みを止めた僕たちを見つけた。
ぎりと視点を渡に固定すると、つかつかと近寄ってくる。いきなり、なんの躊躇いもなく渡のTシャツの襟を掴みあげた。

「深空に会いに行ったな!?」

啓治が雷のような声で怒鳴った。
渡の身体がほとんど宙に浮き、慌てた僕は間に入ろうとしたけれど、肩を押され簡単に突き飛ばされてしまう。尻餅をつきながら、非力な自分に歯噛みしたくなる。
啓治は僕など端から見向きもせずに、渡を締め上げ、がくがくと揺すった。

「深空に会ったら殺すと………言っただろう!!おい!!」

この前、僕と渡で行った見舞いの件だ。
どうしてかわからないけれど、この男はそんなことまでかぎつけ、渡を脅しにきたのだ。その執念にぞっとする。

渡は黙っていた。
真っ青な顔をして、しかしきつく眉を張って耐えていた。