「大学の友達がMDに入れてくれたのを思い出した」

言って横を見ると、渡が珍しく上機嫌という表情になっていた。
頬をゆるめ、目を細め、唇が歌詞に合わせて動く。

僕たちはその曲を何度もリピートさせる。
お互い聞こえるか聞こえないか程度の声量で歌詞を口ずさみながら歩く。

「うちの実家さ、ホント星が綺麗なんだよ」

歌詞の中に星を見上げるという部分が頻回出てくる。僕は言った。

「秋のしし座流星群さ、うちの実家に見に行かない?」

「おまえの実家?うわ、面倒くせぇ」

「なんでだよ」

謂れなき『面倒くせえ』に憤慨して僕が言うと、渡は眉をひそめている。

「友達の実家とかさ、どういう顔していけばいいわけ?しかも泊まりだろ?俺、経験ないんですけど」

なんだ、渡は困っているのだ。だから、こんな悪態をつくのだ。

「『恒くんの親友でぇす』とか言って、へらへら笑って、母さんの作るメシをたくさん食ってくれればそれでいいよ」

僕がニヤニヤと答えると、いっそう渡は口のへの字に曲げ困った顔だ。
たぶん、断れるものなら断りたいと思ってるんだろうな。

「まだ、何ヶ月かあるから考えとけよ」

僕の言葉に渡は返事をしなかった。