「あー、知ってる!この前、深夜の音楽番組で見た!」

曲はすぐにわかった。その頃流行っていた邦楽で、歌っていたミュージシャンの出世作だ。
意外だった。渡が流行りものを好むなんて。

「よくねぇ?なんか、疾走感あって」

「うん、わかる。でも、渡にしては明るい曲を選ぶねぇ」

僕の言葉に渡が顔をしかめる。

「俺にしてはってなんだよ。暗いヤツって言いたそうだな」

「渡って見た目軽そうな今どきの若者って感じするけど、中身は硬派じゃん。流行りものにはのりませんって感じの」

硬派という言葉は割と彼にはいい褒め言葉だったみたいだ。
渡はにまっと緩んだ唇をきゅうっと結び直し、髪をかきあげた。

「別に。いいもんはいいって言うだろ」

「うん、そだね。あ、待って待って」

僕は鞄の中からMDウォークマンを引っ張りだした。
携帯で音楽を聞いたりするのはもう何年か先の話で、僕の青春時代はこのMDウォークマンやCDウォークマンが携帯できる音楽の主流だった。

本体に巻き付けたコードをはずし、片方のイヤホンを渡の耳に押し込む。
もう片方を自分の左耳につける。スイッチをオンにして少しすると件の曲が流れ出す。

「そうそう、この曲」

渡が喜々として言う。