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七月も末になり、僕のテストも今日で終わりというある日、僕たちは映画を見に行く予定だった。
話題作のレイトショーのチケットをバイト先でもらった渡が僕を誘ったのだ。
あの夏は話題作と呼ばれる映画がいくつもあって、僕と渡も何本かは見たのはずなのだけれど、どれもさっぱり印象にない。覚えているのは渡と映画に行ったという事実だけだ。
夕方に駅前で待ちあわせた。
僕は学校でテストを受けた帰りで、教科書を満載した重たいバッグをかついでロータリーのバス停で待つ。
コンビニでバイトを終えた渡はすぐにやってきた。
映画の前に何か腹に入れておこうと、二人でラーメンを食べに行った。
街はラーメン激戦区で、美味いラーメン屋がいくつもある。
僕は定番のしょうゆ味が好きだけど、渡はやたら脂っぽく匂いのきついとんこつラーメン屋が好き。この日もそこに付き合わされ、僕は全身とんこつ臭くなって店を出た。帰ってシャワーを浴びるまでこの匂いなんだろうなと思うと、うんざりしたけれど、渡がちょうどいい提案をしてくる。
「一度うちに戻っていい?」
「なんで」
「雨降るって、ここの店員が。洗濯物がベランダに干しっ放し」
バイト先の制服の洗い替えが干されているらしい。確かに見上げた空は西側にくもがかかっている。
「じゃ、シャワー貸して。僕はこの匂いを一刻も早く取りたい」
映画までまだ時間がある。自宅にも寄れる距離だったけれど、腹がいっぱいでこのままでは映画館で熟睡してしまうだろうから、渡に同行するのは良い腹ごなしにもなりそうだ。
服の匂いはスプレーの消臭剤でごまかそう。渡の部屋にあったはずだ。