病院に来るのは二度目だ。
僕の友人はとっくに退院しているから、正真正銘、遠坂深空のお見舞いということになる。

僕が妙にドキドキしていると、渡は受付を素通りして院内を奥に進んでいく。
どうやら、正式な見舞客として記録に残るのを避けているようだ。確かに、あの怖いお兄さんが、渡が来る時間を把握するようになっては嫌だろう。

7階の暗い廊下を進む。今日もひんやりとしている。
渡が深空の病室前で立ち止まった。
からりと引き戸を開けると、先日と同じように、中央のベッドに彼女は寝ていた。

渡に続いて一歩部屋に入る。
エアコンの風は弱く、室内は涼しいというよりぬるい。

渡がベッドサイドに立った。僕はおずおずと横に並び、彼女を見下ろした。
ダークブラウンの髪は柔らかくシーツに散り、伏せられたまつ毛は細くびっしりと生えている。
近くで見ると、やはり眠り姫は綺麗だった。モデルや女優のような美しさとは違う。人形というのでもない。生と死の狭間で眠る静けさがことさら彼女を美しく見せるのかもしれない。

また会えたね。
そんな気持ちになる。

次の瞬間、自分の気持ち悪い思考に顔を隠したくなった。
恥ずかしい。話したこともない友人の姉の顔が見たくてついてきたなんて。
そして彼女に心の中で話しかけたなんて。