渡がベッドの横に寄り添うように立っていた。
その顔を見て、僕は一瞬にして浮かれた気持ちが吹っ飛んだ。

肝が冷えた。
渡はぞっとするほど何もない表情をしていた。空っぽの表情……それ以外に形容ができない。

見てはいけない光景だったのだ。
僕は少女に見とれておきながら、渡の後をつけたことをようやく後悔する。
渡の内側を覗いてしまった。それは暗く深いがらんどうだ。

「何か御用ですか」

不意に背後から声をかけられ、死んでしまうかと思うほど驚いた。

振り向くとそこには背の高い男が立っていた。
僕は178センチの身長があるけれど、その男は悠に10センチは高いように見え、がっしりとした頑健な骨格をしている。
年の頃は20代後半だろうか。彫の深い顔立ちを険しく歪め、僕を怪しんでいることは明らかだ。

何も答えられずにいると、彼は僕を頭から足までじろじろと眺め、結局何も言わずに僕を除けてドアを開けた。

僕はすでに罪悪感で胸をいっぱいにしていたので、それ以上はろくに動くこともできず木偶のように立ち尽くす。男がドアを開け、顔色をなくすのを真横で見ていた。

「なにやってんだ!貴様!」

男の割れんばかりの怒声が響いた。
渡が弾かれたように振り返る。

渡の目には、僕と僕の横にいる体格のいい男がいっぺんに映ったことだろう。

渡は僕らを交互に見て、さっと顔色を変えた。
唇が何か言いかけて、言葉にならずに結ばれる。

すると、横の男が動いた。
ずかずかと病室に入って行き、渡のシャツの襟首をつかむと、片手で釣り上げたのだ。