7階のワンフロアはしんと静まり返っていた。
どのドアも堅く閉ざされ、他に見舞い客はいない。
まるでこの場所だけ海底に沈んでいる遺跡か何かのようだった。
ひんやりと停滞した空気に、一転寒気を覚える。

ドアはうっすらと隙間が開いていて、僕はおそるおそる室内を覗いた。
後にしてみれば下品なことをしたなと思う。友人をつけて、プライベートを覗き込んでいたわけだから。
しかし、この時は渡の秘密を暴くことに夢中で、そんなことまで頭が回らなかった。

ドアの隙間から目を凝らすと、映ったのは狭い個室だった。
中央にベッドがあり、周囲には何やら機械の類いが並んでいた。
並んだ無機物のどれかが立てる音。点滴が落ちるかすかな振動まで聞こえてきそうだ。

ベッドに寝ている人がいる。
子どもだろうか。いや、違う。女の子だ。

正直に告白するなら、僕はその女の子に見惚れた。

ふわふわと柔らかそうにベッドに広がる髪はダークブラウン。
伏せられた目が大きいことは離れた距離でもわかる。
酸素マスクに遮られて見えないけれど、鼻梁が高いことも確認できる。
年は僕らより若そうだ。眠っているようにも死んでいるようにも見えた。ひどく痩せた腕から伸びる点滴の雫だけが動いている。

綺麗だ。顔立ちもそうだけれど、雰囲気が静謐だった。
もし彼女が死に瀕しているとしたら、そんな言い草はとても失礼だろうと思う。
それでも、ものすごく綺麗な女の子が眠っていることは事実だった。

白雪姫ってこんな感じで棺の中にいたのかもしれない。そりゃ、王子だって放っておけないよな。
そんなロマンチックすぎる想像が浮かび、僕は無性に恥ずかしくなる。