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その夜を境に渡は僕のもとに来なくなった。
図書館に行っても姿が見えない。
バイト先のコンビニは近所だし、行けば会えることは知っていたけれど、そこまで行くべきか心は定まらなかった。
思い出すのは、渡の腕の強さ。長い指がためらいもなく僕の首を締め上げた。平常、渡は端整な顔立ちをしていたが、あの一瞬は尋常ではない怒りで悪鬼のごとく見えた。
かつて他人にあれほどの激情を示されたことがあったか。いや、あるはずない。僕は温厚な人間だし、今までの人生に喧嘩や諍いなんて縁がなかった。
とはいえ、このまま渡と疎遠になっていくのは嫌だ。
あの不可解な怒りのわけを知りたい。
家族について、相当嫌な想いがあり、そこを無神経についてしまった僕にも問題があるのかもしれない。それなら、きちんと謝りたい。
渡との居心地のいい友情を取り戻したかった。こんな後味の悪い終わりは嫌だ。
しかしながら決定的な勇気が足らず、僕は渡に会いに行くのをずるずると先延ばしにしていった。