「その言い方はないんじゃないか」

正直に言えば、渡にすごまれたことが心外だった。たいしたことを聞いていないじゃないか。声が少し大きくなる。

「つーか、秘密主義か何か知らないけど、家族のこと明かせないってなんだよ。ちょっとカッコつけすぎなんじゃないの?」

「黙れよ」

「おまえは親のこと大事とか思わないの?」

その言葉をきっかけに、渡が立ち上がった。
僕はまだ自分の失敗に気がつかずそれを眺めていたけれど、急に渡に肩をつかまれ驚いて顔を上げた。
見れば渡は鬼の形相で僕を睨んでいる。

「おまえみたいな……」

渡の声は一度噛みしめた歯の軋みで中断する。必死に怒り抑えようとしている様子だ。

「金持ちの馬鹿大学生に、俺のこと知る権利なんかねぇんだよ」

「ちょっと聞いただけで、棘だすなって。ヤマアラシか、おまえ。面倒くさいな」

茶化してみようかと思うけれど、渡はぎりぎりと歯を噛みしめている。瞳は燃えるような炎を灯し、僕を射る。

「面倒くせぇなら、俺になんか構うなよ……っ!」