「ケーキって何?」

「ん」

渡がビニール袋を掲げた。のぞくと、コンビニで売っているふたつセットのショートケーキとパックのコーヒーがふたつ入っている。

「これはもしや、今日のお礼?」

「まあな、廃棄品だけど」

「そんなのもらっていいの?」

「内緒で」

渡の無表情で抑揚なく言われても、僕はわくわくと高揚した。人付き合いの悪そうな友人が、わざわざ僕のためにケーキを調達してお礼に来たのだ。僕は言う。

「な、そこの公園で一緒に食ってけよ」

「え?ヤダ」

「廃棄品なんだろ?すぐ食べなきゃマズイじゃん。僕ひとりで二個は食べらんない」

あからさまに面倒な顔をする渡に食い下がると、しばし嫌そうに黙ってから渡は渋々頷いた。

公園は砂利敷の駐車場の横にあり、ベンチとブランコしかない猫の額ほどの緑地だ。
子どもが遊んでいるところなんて見たことがないさびれた場所。

僕らはベンチに並んで腰かけ、パックコーヒーといちごのショートケーキを食べた。
季節は初夏だった。緑地には街灯はなく、僕らのいた街は駅前から10分も歩けば結構のどかだ。星も僕の田舎ほどじゃないけれど、そこそこに見える。

「夏の大三角形が見えるかもしれないな」

僕が言うと、渡がこちらを見た。