渡が観念して言った。我が意を得たり。僕は自転車をとめ、渡を後ろに乗せた。二人乗りなんて、警察に見つかったら怒られるなぁ。体力があるほうでない僕に、二人乗りは楽では無かった。幸い下り坂ばかりなのでスムーズに自転車は進む。
バイト時刻の5分前にどうにか渡をコンビニ前で下ろすことができた。

「じゃ、頑張れよ!」

「恒、ありがとう!」

走り去ろうとする僕に、彼は後ろから叫んだ。渡のはっきりした声を初めて聞いた気がした。いつもぼそぼそ喋ってるのに、腹から声、出せるじゃん。

「今度、メシおごれよー」

僕は首をねじって叫び返した。




それから5時間後の22時、渡からメールがあった。
僕は課題をやっていたけれど、珍しい渡からの連絡に携帯を持ち上げた。
『ケーキ食うか?』
たった一言。なんだそれ。
『食う』と返信してみると、『じゃあ、うちのコンビニの前に来い』とのこと。

僕はジャージにTシャツという部屋着のまま、家を出た。
渡の勤務先のコンビニまでは徒歩5分。僕の部屋のある路地から出てすぐに、歩いてきた渡と遭遇した。向こうも僕の部屋の方面に歩いてきてくれたようだ。